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不妊の原因
不妊症とは
不妊症とは、一般的には何らかの理由で一定期間妊娠できない状態のことをいいます。広い意味で言えば、お互いに忙しくてなかなか夫婦生活が取れないなどの社会的な要因も理由に入ります。妊娠できない一定の期間(不妊期間)については、これまでも様々な定義がありましたが、日本産婦人科学会では、1年間の不妊期間をもって不妊症とすることが一般的です。簡単に言うと、健康な男女が妊娠を希望し、避妊をせず夫婦生活を営んでも、1年間の期間を過ぎて妊娠しない場合には不妊症と診断することが出来ます。
日本生殖医学会における定義では、不妊症とは『なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態』とされています。排卵障害や、子宮筋腫、子宮内膜症の合併、骨盤腹膜炎の既往などがあると妊娠しにくいことが分かっています。このような場合には、定義を満たさなくても検査や治療に踏み切った方が良いと思います。
また、加齢により男女とも妊娠が起こりにくくなることが知られており、治療を先送りすることで成果が下がることを考えると、一定期間を待たないですぐに治療したほうが良いでしょう。
不妊の不安がある方は…
米国の生殖医学会では「不妊症と定義できるのは1年間の不妊期間を持つものであるが、女性の年齢が35歳以上の場合には6ヶ月の不妊期間が経過したあとは検査を開始することは認められる」との提唱がなされているようです。
女性が妊娠できる年齢は40代前半までと限られているため、早期に不妊症の診断や治療を開始しないとますます妊娠しにくくなることが考えられます。このように病気や不安な要素がある場合には、一定期間妊娠しないことを条件とはせず、早めに当クリニックで不妊について相談して頂きたいと思います。
不妊は病気ではないと言われることもあるようですが、いざとなれば妊娠できるので自分は大丈夫だという根拠のない自信は持たない方が良いでしょう。不妊症においては適切な診療と必要に応じた治療をすることが、妊娠をすることができる近道と言えます。
女性の原因
女性の不妊症の原因には、大きく分けて次の5つがあります。
- 排卵因子→排卵障害
- 卵管因子→閉塞、狭窄、癒着など
- 子宮因子→子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、先天奇形など
- 頸管因子→子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など
- 免疫因子→抗精子抗体など
このうち排卵因子、卵管因子に男性不因子を加えた3つは頻度が高く、不妊症の3大原因と言われています。
排卵因子
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月経周期が25日~38日型で、基礎体温が二相性の場合は排卵障害の可能性は低いですが、これにあてはまらない場合(月経不順)は、排卵障害を起こしている可能性があります。排卵障害の原因は様々ですが、脳下垂体からのプロラクチンというホルモンが多く出てしまう高プロラクチン血症や、男性ホルモンの分泌が多くなってしまう多嚢胞性卵巣症候群によるものがあります。
その他、精神的ストレス、あるいは急激なダイエットに成功した場合にも月経不順をきたし、不妊症になる事があります。
また、年齢が若いにも関わらず、卵巣機能が極端に低下し無排卵に陥る早発卵巣不全も不妊症の原因になります。この原因を知るために
- 基礎体温表
- 基礎体温表について
卵管因子
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卵管は、精子と卵子が出会い受精する大切な場所です。精子はここを通って卵子にやっとたどり着くことができ、卵巣から排卵された卵子もこの出会いの場に運ばれてきます。受精卵はここで受精し、受精卵として子宮の中に戻っていきます。卵管が炎症や癒着などで詰まっていると妊娠が難しくなります。
原因として有名なのは、性器クラミジア感染症です。卵管炎や骨盤腹膜炎の原因になるため、卵管を閉塞させたり、卵管周囲を癒着させたりします。これにより卵管に卵子が取り込まれにくくなるために不妊症になります。女性はクラミジアに感染しても無症状のことが多いため、感染に気づかず進行している場合が多いです。このため、当クリニックでは必ずスクリーニング検査をしてから治療にのぞみます。子宮、卵管の異常を発見し、かつ卵管の通りを良くする治療効果のある子宮卵管造影検査を行うためには、このクラミジア検査は必須です。
盲腸(虫垂炎)やお腹(骨盤内)の手術を受けた経験がある方では、卵管周囲が癒着している場合があります。また生理痛がひどい方、痛み止めの使用量が増えている方は子宮内膜症である疑いがありますが、この場合にも、卵管周囲の癒着がみつかることがあります。
この原因を知るために
子宮因子
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一番頻度の高いものとしては、子宮筋腫でしょう。生理の時に出血量が多く、健康診断などで貧血と言われている方は可能性が高いです。子宮筋腫は、子宮の外側から内側まで色々な場所にできますが、場所により妊娠に対する影響の大きさも変わります。特に子宮の内側へ隆起する粘膜下筋腫と言われるものは、大切な受精卵が着床するのに邪魔(着床障害)になり不妊の原因になります。
また、子宮筋腫があることにより精子が卵子へ到達するのを邪魔するために妊娠しにくくなることもあります。
同様に子宮内膜ポリープも着床障害の原因になります。子宮の内腔が癒着し、月経量が減少する状態をアッシャーマン症候群と呼び、これも着床に影響することがあります。一方、頻度は低いですが、子宮奇形も不妊の原因になります。これは先天的に子宮が変形している状態ですが、反復流産の原因にもなるといわれています。
この原因を知るために
頸管因子
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子宮の入口である頸管は精子の通り道です。排卵の時期に合わせて精子を通りやすくする状態になります。子宮の奇形や子宮頸部の手術、子宮頸部の炎症などにより、頸管粘液量が少なくなった場合などは精子が子宮内へ侵入しにくくなり、妊娠しづらくなります。
免疫因子
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夫の精子に問題がなく、なかなか妊娠できない場合には考えるべき要因の一つです。
特に精子の運動を止めてしまう抗体は精子不動化抗体と言われます。抗体を産生する女性では、頸管粘液内にも抗体が分泌され、たとえ運動性の良い精子であっても通過が妨げられてしまい結果として不妊の原因となります。また、卵管内にも分泌されるため、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても、卵管内でその通過が妨げられてしまいます。
受精の場面でも、この抗体は精子が卵子と結合することを妨害し、結果として不妊症になることがあります。体外受精を積極的に考えなければならない因子です。
男性の原因
不妊の原因としては、男性側、女性側の割合は、ほぼ半々だと言われています。
造精機能障害
精子の数が少ない、または無い、あるは精子の運動性などの性状が悪いと、妊娠しにくくなります。精子は精巣(睾丸)の中で作られ、細い管(精巣上体)を通る間に運動能力を得て、完成した精子となります。精巣での精子形成や、精巣上体での運動能力の獲得過程で問題があると、精子の数が少なくなったり、精子の運動率が低下したり、奇形率が多くなったりして、受精能力が低下します。
特に原因はなくても精子が作られない場合もありますが、原因として精索静脈瘤が関与する場合もあります。これは手術によって回復し得る可能性もありますが、精子の回復に要する時間的な制約の観点からは、体外受精(顕微受精)での早期妊娠を視野に入れることも大切かと思います。
この他に、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、停留精巣の手術後やおたふく風邪による耳下腺炎性精巣炎によっても、高度の精液性状低下が見られることがあります。
無精子症とは、射出された精液の中に精子が全く見られない状態をいいます。精子が作られているのに精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症と、もともと精子が作られていない無精子症があります。前者の代表的な疾患として先天性両側精管欠損症や精巣上体炎後の炎症性閉塞、鼠径ヘルニア手術等があります。後者はほとんどが原因不明ですが染色体異常であるクラインフェルター症候群(47XXY)が1割〜2割みられます。無精子症の場合でも、閉塞した精路の再建や、精巣内の精子を回収して顕微受精(TESE)させることにより、挙児の可能性が出てきます。
当クリニックでは、泌尿器科専門医との連携も含め、適切な治療法を御提案いたします。
性機能障害
性機能障害には、ストレス等により、有効な勃起が起こらず性行為がうまくいかない勃起障害(ED)や性行為は出来ても膣内に射精が困難な膣内射精障害があります。一般的にはストレスや妊娠に向けての精神的なプレッシャーなどが原因と考えられていますが、糖尿病などの病気が原因のこともあります。不妊の治療としてタイミング指導を行う場合、タイミングにこだわるプレッシャーで性行為そのものに障害を来たす場合もあります。
その他、動脈硬化や糖尿病も性機能障害の原因になります。糖尿病は軽症でも勃起障害となり、重症となると射精障害や精液量が減少し逆行性射精(一部の精液が膀胱内に射出される)や精液が出なくなる無精液症を来します。
加齢による影響
男女とも、加齢により妊娠できる力(妊孕性)が低下することが分かっています。女性は35歳を過ぎると著明な低下を来たしますが、男性は、女性に比べるとゆっくりです。男性は、35歳頃から徐々に精子の質の低下が起こります。いずれにせよ、精子の検査結果次第で、不妊治療の治療ステージが決まる部分も大きく、当クリニックでは早めの精子検査を皆様におすすめしています。
原因不明不妊
不妊症の検査をしても、どこにも明らかな不妊の原因が見つからない場合を、原因不明不妊と呼んでいます。
原因不明不妊は不妊症の1/3をしめるといわれていますが、本当に原因がないわけではなく、検査では見つからない原因が潜んでいます。
その原因のひとつは、何らかの原因で精子と卵子が体内で受精していない場合で、人工授精や体外受精治療の適応となります。
こういった意味では、体外受精はステップアップした「検査」とも言えます。
もう一つの原因は、精子あるいは卵子そのものの妊孕性(赤ちゃんを作る力)が低下している、あるいはなくなっている場合です。加齢などがこの原因となると考えられています。
精子、卵子の妊孕力は年齢とともに低下していきます。女性の場合は、37歳から44歳の間のどこかの時点で消失するとも言われています。
いったん精子や卵子の力が消失してしまうと、現在の医学では有効な治療はほとんどないため、そうなる前に治療を開始することが唯一の対処法となります。ある程度の不妊治療を進めた場合にステップアップするという考え方はこの事実に基づいています。体外受精に早くステップアップすることは、夫婦の状況によっては賢明な判断になると思います。